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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
三
「由来、お汝たちの主人と自分とは、浅からぬ交わりもなして来た仲。いかに安土のおいいつけなればとて、何でむざと、官兵衛どのにとって、大切な嫡子をば、首として差出されよう。……案じるには及ばぬ。それがしの胸にまかせておきなさい」
彼の慰撫はねんごろであった。その温情に遭うとまた、二人の客臣はよけいに涙にくれた。半兵衛はその体を見ているに忍びなかった。
――世に質子の身上ほど不愍なものはないと思っていたが、それはまだ世間を知らないし頑是ないところもある。けれど、膝を屈して、他家に養わるる無邪気なものを守り通して、しかもよそにあっても主従の道をたがえず、事あればその生命にも代わろうとする傅役の辛さと難しさを思いやると、あわれなのはむしろ質子よりもこれらの者であるまいかと思い遣った。
三
彼はよく城下を歩いた。城も小城、町も山村。殿様と知れば、路傍の者も、田の人影も、あわてて土に額ずいたが、半兵衛の他行は、いつも微行ともいえる姿で、大仰さは少しもない。半兵衛は城主らしく派手派手と歩くのが嫌いであった。
それと、彼のこのごろの出歩きには、心のうちにある目あてがあった。