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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

稲の穂波

一

稲の穂波

一

「……オ。お気がつきましたか。殿、殿」

誰か、担架の側へ来て、顔をさしよせた。官兵衛はひとみをうごかした。それはなつかしい家臣の栗山善助であり母里太兵衛であった。

「……うむ。うむ」

官兵衛は洟みずを啜った。水洟をふきたい意識があるが手はうごかない。

「お輿の者。すこし待て」

善助は、戸板の担架を担っている兵に、しばし歩行を留めさせて、前後に従う武者たちに、

「どなたか鼻紙をお持ちあわせないか」

と、たずねた。

一名の武者が懐紙を与えた。善助はそれを揉んで、主人の洟みずを拭った。官兵衛は子どものように鼻の奥にあるのを更にちんといって出した。

「ご苦痛でございましょうが、しばらくおこらえ下さいまし。――ご本陣まで」

顔を見知らない一将がうしろからいった。母里太兵衛が取次いで、

「陣地の通行中、ご警固くだされているのは、滝川一益どののご家臣、飯田千太夫どのであります」

と、主人の心が休むように特にいった。

官兵衛はさすがに嗄すれて糸のような声ではあったが、戸板の上に仰向いたまま、

「千太夫。大儀」

と、ひと言いった。

担架の上の重病人と思ってうしろから突っ立ったままものをいった一益の臣は、威圧を覚えたものか、あわてて下へひざまずいて、