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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
死を枕とし
一
月もよし、涼みがてら筑前も途中までお見送りする」
といって、一艘には料理人や家臣をのせ、一艘には、官兵衛と自分だけが乗って、黄昏頃、岸を離れた。
ちょうど月の中天にかかる頃、官兵衛と秀吉の船も、琵琶湖の中ほどまで来ていた。酒を酌み、月を賞し、未来を語りなどして、夜を更かし、やがて船と船とに別れ乗ったが、相去るに臨んで、おさらばと、波間に顧み合って手を振ったとき、官兵衛は生れて初めて涙を頬に味わった。なぜか涙がながれたのである。
死を枕とし
一
摂津の荒木村重の位置はいま重要な性格を持っている。伊丹を本城として、尼ヶ崎城と兵庫の花隈城とをむすび、三城連環の線をなして、中国大坂間の交通を遮断し、本願寺そのほかの反信長分子と毛利家との連絡をきびしく監視している。なお且つ、一朝信長から中国攻略の令が発せられる日となれば、ここは真っ先に、織田軍の最前線基地ともなる突角の地でもあった。
以て信長が、いかに村重の武勇を高く買い、その一徹者の正直を信頼しているか分るのである。
「やあ、官兵衛ではないか。どうして、これへはござった。さても唐突な」
その荒木村重は、官兵衛の訪問をうけると、早速に会ってくれたが、ひどく怪訝そうな顔をした。