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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
「――が、もし官兵衛始め一同の者が、お目通りを望みおりますものとすれば?」
「もとより会うてくれよう。真実、彼が織田家に異心なく、まったく村重の奸計にかかって、今日まで、さる境遇にいたものとすれば、誠に不愍のいたりだ。会う会わぬどころではない。いかに彼を慰めてよいか、信長は当惑するほどに思う。早う行ってみるがいい」
「かしこまりました」
前田又四郎は湯浅甚助とともに彼方へ駆けて行った。
二
今朝、勝軍のどよめきの中に、前線の負傷者とも、敵方の病人とも思われないが、戸板のうえに横臥したまま、滝川の家臣や医師などに護られてこの本営へ入って来たので、途上にそれを見かけた多くの将士は、
「何事であろう。何者であろう」
と、みな眼をそばだてて噂していたものだった。そのうちに誰からともなく、昨年の十月、伊丹城へ入ったまま、生死不明となっていた姫路の黒田官兵衛であると伝えられると、
「えっ。あの人がか?」
と、その変り果てた姿にもみな驚き合い、同時にまた、
「それではまだ生きていたものとみえる」
と、遭難当時の一と頃、世上に喧しく聞えた種々な取沙汰を今更のように思い出して、その流説にまどわされて、きょうまで官兵衛に抱いていた誤った認識をそれぞれ心のうちで急に是正していた。