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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
官兵衛としては、もういかなる苦境に立とうが、秀吉にだけは反けない気もちになっていた。
二
「都が見られる。安土が見られる」
そういって、十歳の松千代が、旅の支度にはしゃぐのを見ると、彼の若い母も、祖父の宗円も涙を制しきれなかった。
いよいよ、この一粒だねを、質子に上すと、極まったのは、同年の九月だった。
「お母様、行って来ます。お祖父様、行って参ります」
少年の眸には、ゆくてを楽しむ心しかない。実に々たるものである。わらじを穿く、刀を帯びる、笠を持つ。そうした旅装も少年の夢を凜々しく駆りたてる。涙ながら見送る幼少からの乳母や家臣や――また母なる人の姿にさえもう一顧も与えず先ばかり急ぐのだった。
城門から馬に乗った。その可憐なすがたが、なおさら、見送りの涙をしぼらせた。およそ遠くへ質子として送られた質子で無事に帰された質子が幾人あるであろうかと。
安土まで供をして行く家来は、わずか四、五名に過ぎなかった。目については、途中、敵の手に横奪りされる惧れがある。が、飾磨の浜で船支度して待っている面々のうちには、なお屈強が揃っているし、兵庫の浦まで行けば、そこには、父の官兵衛が待っているはずだった。