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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

尼子勝久は、切腹して、城兵の助命を敵に仰ぎ、山中鹿之介幸盛は降人となり、毛利の軍門にひざまずいた。

「周防の地で五千石の知行を与えよう。旧怨をわすれて、長く毛利家に仕える心はないか」

吉川元春も小早川隆景も、彼を優遇してこう沙汰したのである。鹿之介は、

「望んでもないこと」

と、恩に服し、その妻子や郎党など三十人ほどを伴って、芸州へ護送されて行ったのであった。

不撓不屈、主家再興のために、大国毛利を敵として、数十年間、ここまで百難に剋ち百難に屈せずに来た彼が、一転、余りにもみじめなそして愍れむべき物腰であった。

――が、鹿之介の胸には、この最期の最期にいたるまで、まだ、

(ただは死なぬ)

と、ひそかに秘していたものがあったのである。それは、敵国へ曳かれて後、吉川元春なりあわよくば毛利輝元なりと、刺し交えて死なんとすることだった。

しかし、彼の降伏を、毛利方でも初めから充分に懐疑していた。

(彼ほどな男が?)と。

主人勝久はすでに切腹している。主家尼子家は血において断絶したのだ。美禄を獲てのめのめと自己のみ半生の栄耀を偸むような鹿之介幸盛であろうはずはない。