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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
血まなこになっている久左衛門へむかって、共に案じながら叫ぶと、久左衛門は、
「主君のお身が大事。善助どの、太兵衛どのは、ここに関わらず先へ行ってくれ。――於菊どのの身は、わしが尋ねて後から出る」
と、遠くからいった。
「おうっ。先へ行くぞ」
善助と太兵衛は駆け出した。櫓はいまや焼け落ちんとしていた。そのほか殿廂楼台ことごとく火の濤である。しかも城中いたるところにきらめく敵味方の槍と槍、太刀と太刀。また組んず解ぐれつの肉闘や、一団の武者と一団の武者との陣列的な搏撃など、いまやここの終局は悽愴極まる屍山血河を描いていた。
二
本丸から大手まではかなりの距離がある。それに勝手不案内なので善助と太兵衛は方角を間違えたらしい。内門は出たが、さいごの城門が見つからなかった。火に趁われ、軍勢に阻められ、思うままに駆けられないせいもある。そのうちに、
「待てっ。織田の者よな」
一とかたまりの武者が白刃をそろえて前を塞いだ。みな面や全身を血にそめている死にもの狂いの荒木勢である。殊に、うしろへ駆け廻った幾名かは、栗山善助の背に眼をつけて、
「負うているのは、獄に繋がれていた黒田官兵衛であろう。