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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
四
「しばらくお待ちください」
と、声もすずしく辺りを制し、帯をしめ直し、髪の根高々と揚げ、いと神妙に、
「よろしゅうございまする」
と、合図して、男も及ばぬ尋常な最期をとげたというのであった。
「あれはもと伊丹のお城にいた室殿という女子だそうな」
と誰からともなく沙汰されたが、彼女の死後、幾刻も経過せぬうちに、尼二人ほど連れて、その首級と小袖とを、貰いうけて行った婦人があった。
「室殿の妹であろうか」
「どこかの武家の奥方らしいが?」
人々はまた、それについて、しきりに詮索し合ったが、その女性の身元のほうは、ついに誰も知る者がなかった。
分ったのは、よほど後のことであるが、織田信澄麾下の新参で、伊丹亘という者の妻なりと知れた。そしてその妻女の名は、菊とも聞えた。
四
「殿。何かご思案ですか」
「官兵衛か。――下手な考えは休むに似るという。茫然、不落の敵城を見ていたまでのことよ」
「近ごろ、折々、黙然と不興におわすご容子は、いかにもご精気なく仰がれますな」
「それほど元気がないように見ゆるか。……どうもいかぬ」
秀吉は、呟くと、急に面を振って、快活を呼びもどそうとするように笑った。