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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

そこに住んでいる者も、日常もである。

彼の女房は、大勢の子供と一緒に、いつの間にか、田舎の生家へ送ってしまった。表面は、いつ戦争になるか分らないということを理由として。

そのかわりに、菊女という二十歳を幾つか出た年ごろのきれいな義妹が家事の手伝いに来ていた。――播州飾磨の玲珠膏の本家で名物の目薬を買ったことのある者ならこのむすめには見覚えのあるはずであるが、菊女はめったに往来へも出なかった。彼女は、かたくその素姓を秘して来ている飾磨の与次右衛門の娘であったのである。

姫路の主君、官兵衛の兇変につづき、その決死救出組の盟いが結ばれたのを知ると、老いたりといえ、与次右衛門も先代以来の恩顧の臣、ぜひにと、自分も十三人組のなかへ加盟を申し出たが、老人は足手纏いと、同志の者に聞き入れられなかった。けれど、彼とは親戚の伊丹の白銀屋を、同志の足溜りの隠れ家とする便宜上、

(お菊さんなら……)

というのが皆の意見だった。あらゆる場合の秘策には、何といっても、女子は用うるに便宜でもあり、用いてその効が大きいからでもある。

そうした談合もあって、決死救出組がことごとくこの地方へ潜行を果した後、お菊はひとりで此処へ訪ねて来た。