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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
陣門快晴
一
陣門快晴
一
ここの本営にあった信長も、昨夜来、ほとんど一睡もしていなかった。伊丹の落城は必至なものだったし、戦況の見通しも味方の絶対優勢に進んでいるものと分っていたが、なお刻々に来る情報を聞き、次の命令や処理を断じ、また敵の降将を見るなど、営中のかがり火は夜もすがら旺んだった。
そしてようやく暁のころ、
「伊丹城は完く陥滅。残党の勦討、信忠様、信澄様以下、お味方の入城も了りました」
という報を聞いて、初めてしばし手枕でまどろんだ程度だった。
そのくせ彼はもう朝陽とともに起き出して、兵馬に満つる営庭を逍遥していた。朝起きは多年の習性であった。どんなに遅く寝ても起きる時刻はそう変らなかった。
営は古池田の土豪の広い邸内と附近の田野を中心としていた。信長は一隅の柿の木の下に佇んで旭日にてらてら耀いている真っ赤な実の、枝もたわわな姿に眼を醒まされていた。ところへ、本軍の陣門とされている彼方の大きな築土門のあたりから、馬廻りの湯浅甚助が何か事あり気に走って来た。そして信長の姿に遠くひざまずいて、
「ただ今、滝川殿のご家中に守られて、伊丹城の獄内につながれていた黒田官兵衛どのが、お味方の手に救出されてこれへ運ばれて参りました。