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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

「しろがね屋。いま帰るのか」

恟っとして、新七はその人影を、星明りにすかして見た。具足に身をかため、槍をたずさえている。どこか見覚えのあるような気もした。

三

「わしじゃよ。伊丹兵庫頭の家来、加藤八弥太じゃよ」

「おお。旦那様でしたか、これはどうも」

「だいぶ遅い帰りではないか。どこの帰りか」

新七は、ぐっと詰ったが、世事馴れている男なので、巧みに反らした。

「遅い――といえば、ついどうも、仰せつけの鎧小貫の修繕、だんだん延び延びになりまして。何せい、このところ職人どもも手不足でございまして」

「これこれ、新七何をいっているのだ。誰もかような所で破れ鎧の催促はしておらん」

加藤八弥太は、髭で埋まっている熊のような顔を近づけて、大きな口を開いて笑った。と思うと右手の槍を左に持ち代えて、

「こら」

と、もう一度呼び直しながら、新七の肩をずしんと叩いた。

「どうじゃ、もう一ぺん昆陽寺へもどらんか。……隠すな、わしは知っておる。それにこよいこの附近の警備の番には、それがしが当っておるので、案じることもない。見廻りしておる組頭がこういうのじゃからな。ははは」

「……旦那」

「何じゃ」