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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
三
「なにを」
と、たちまち評定の席は、主人の前をも忘れて、殺気と喧騒に墜ち入った。一部の主家の親族や老臣たちを擁してもっぱら毛利方に好意を寄せている侍たちの中から五、六名がやにわに突っ立って、
「ご家老とて、もう生かしてはおけん」
と、刀に訴えてもという威嚇を示して来たからである。
三
「お坐りなさい」
そういったのみで、官兵衛は座もうごかなかった。重厚な眉毛にやや怒ったらしい色をたたえて、自分へ跳びかかって来ようとする人々を窘めたに過ぎなかった。
「ひかえろ、坐らぬか」
小寺政職もつよく叱った。で、憤然たるまま、末席の五、六名が唇をかんで、座に直ったのを見とどけると、官兵衛は初めて胸を正した。語気声色、常と変らない彼に回っていった。
「――実は、それがしの信念は、かくならぬ日頃のうちに、ご主君のお胸へ、篤と、おつたえいたしてある。故に、ご評議となっても、事改めて、ご主君へは申し上げることもない。ただ家中一統の者どもが、毛利に味方せん、いや織田と結ばんなど、二派に別れては、由々しい破滅と、各※(二の字点、1-2-22)の一致を求めらるる旨において、昨夜からのご評議はひらかれておるものとそれがしは信じる。