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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
三
――と視るよりは、或いは、事茲にいたって、彼の頭はまったく突き詰めてしまったといった方が適切であるかも知れない。
彼は密かにこの城を出る考えをそのときから真面目に考えぬいていた。――城とともに在るべき城主たり謀反の張本人たる位置をもわすれて――ひとり密かに、ここを脱して、なお在る味方の一城、摂津の花隈城(兵庫)へひとまず落ちて行こうと肚をすえたのである。そして、一族老臣のほか、主なる城将には無断で、その支度にかかったのは、翌九月二日の宵のころであった。
三
「於室、すぐ身支度をせい」
不意に、西の丸へ来て、村重は室殿へそういった。
室殿はあきれ顔して、彼のすがたを足もとから頭まで見上げた。村重は野外へ狩猟に行くときの一雑兵のような身ごしらえをしていた。
「……どこへですか。そんなおすがたで」
室殿は冷たい眼をした。無智に似てどこかふつうの女以上のするどい賢さもあるこの婦人は、とっさにある事態をもう直感した容子だった。
「どこでもよい。そなたも、できるだけ身軽に、裳もくくしあげて、わしと共に来い」
「いやです」
「なぜ」
「行く先もわからないところへなど行かれませぬ」