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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
三
隙もあらば――と見える周囲のそれを感じているのかどうか。官兵衛は厳としていい渡すと、更に一歩迫って、政職の前へすすみ、
「お櫓下の広庭に、お床几をすえ、陣幕も張り繞らしておきました。お旗本の、万端の固めもできています。はやそこなるご床几場へ御座をお移りあそばすように」
と、すすめた。――いや手を取って寄り添い、左右の鋭い眸の中を通って、庭へ出てしまったのである。
三
望楼の上からは絶えず大声が放たれている。姫路方面の状況を刻々に下へ向って告げているものだった。
この頃、陽はようやく、朝雲をやぶって、視界を仄かに染めていた。
広庭の床几場は、侍小頭の室木斎八と物頭の今津源太夫のふたりが、城兵五十人ばかりで、固めに着き、この部署には、ほとんど、いわゆる毛利加担をひそかに抱く疑いある者は一切近づけなかった。
また、官兵衛の指揮によって、否応なく城外へ出て行った蔵光正利、益田孫右衛門、村井河内などという歴乎たる諸将で、しかも毛利方と通謀している物騒なる味方には、官兵衛の股肱の母里太兵衛とか、栗山善助などの豪胆者をひとりひとり隊に付けて、万一、不審な行動に出たときは、即座にその部将と刺し交えて死ぬべしと、官兵衛は先にいい渡してある。