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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
「いま殿のお手許へ御状が着きました。それに依れば、滝川、明智、丹羽の諸将に、荒木村重の一軍をも加え、すでに当所へ向けて、立たれておるようです。――信長公のご嫡男信忠様をも加えられて」
「それで、やや安堵です。安土の評議、いかがあろうかと案じていたが」
「いや、安堵とはまいりますまい。困難はむしろこれからのように思われる」
「……と、仰せられるは?」
「丹羽殿といい、明智、滝川、佐久間などの諸将といい、みな一方の大将として自負するところ強く、わが殿の指図をうけ、その指揮下に動くは、内心快しとせぬ方々ばかりではないか。そこに統率のご困難が生じて来るのではないかと思われる」
四月である。山中の春は遅く、いまが鶯のさかりであった。
二
心と心の交わりは、そこに一壺の酒を置かなくても、話に倦むことを知らなかった。折々、どこからか舞って来る山桜の花びらを縁先に見つつ、終始、ふたりの話は軍事に限られていたようであったが、やがてふと、半兵衛重治からこう訊ねた。
「先頃は、度々のご戦功に依って、筑前様から名馬書写山をご拝領になったそうですが」
「されば、過分なご恩賞でした。けれど、それがしの功はまったく部下の働きに依るもので、家臣の中の母里太兵衛にふたたび授けてしもうたので、殿には、何と思召されているやら、実は、恐れ入っているわけです