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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

そして白湯を求めた。

その白湯を持ってきたのは、茶道衆であった。慇懃にすすめていう。

「別間のお支度がととのいました。ここよりはあちらの方が涼やかでもございますから、お移り遊ばしましては如何で」

「では、ご案内をたのもうか」

その者について官兵衛は歩を移した。秋の末ながら今日の残暑というものは堪らないほどしつこい。彼はふと平井山の陣の肌寒い秋を思い出した。秀吉のすがたを思いうかべた。

「どうぞ、こちらへ」

そこかと思っていると、茶道衆はまた、次の部屋へすすんだ。壁の多い、そして何らの調度も目立たない二十畳ほどの一室である。褥に着くのを見ると、茶道衆はすぐ落着かない腰を浮かせて、

「ただ今、間もなく殿がお見え遊ばしますから」

と、逃げるがごとく去りかけた。

三

この室の位置構造、またその茶道方の挙動で、官兵衛はすぐこれはと直感的に不審を抱いたので、

「待て。待てっお茶道」

と呼びとめた。

背から呼ばれるや否や、お茶道は転がるように逃げ去った。官兵衛はつづいて、猛然と、廊の外へ出ようとしたが、もういけなかった。荒木村重の家臣が素槍をそろえて来たのである。

鷹の如く、ほかの部屋へ跳びこんだ。