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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

三

有馬の池の坊へ、陣輿が着いた。

池の坊の主、左橘右衛門は、雇人を指図して、その重病人を人目につかない奥の一室へ案内した。そして家中の者が心をあわせて鄭重に、また親切に世話をした。

一年ぶりである。官兵衛は湯にひたった。

骨と皮ばかりの体を、壊れ物のように、女中や宿の男の手に支えられて、そうっと、湯槽の中へ沈めてもらったのである。

官兵衛は、湯槽のへりに枕した。けれど、体が浮きそうでならなかった。

「……ああ」

初めて人心地のついたものを身の中に持った。われ生きたりと思った。

「ふしぎな……。ふしぎなことだ」

今更のように回顧して、すべてが奇跡のように考えられた。松千代が生きていた――これは自分の生きている以上の思いだった。奇跡以上の奇跡であった。

「みな半兵衛重治の友情によるところ」と、感じるとともにその背後の人、秀吉の恩を感受せずにはいられなかった。ひいては、天地の意を悟らずにいられなかった。

「大きく思えば、自分になお命をかし給うものも、一子を助けおかれたものも、目に見えぬ何かの偉大なものの思し召となすしかない。官兵衛を生かしておいて、天はこの身に、何をなお世に行えと命じ給うものか」