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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

五体のうちなお四肢の揃っているのは、ふしぎな程である。戦国の将士みな風雲に会して、顕わるる僥倖児と後人に見られやすいが、この時代においてすら、人生、大名となるもまた難い哉であった。――とにかく官兵衛は正直によろこんだ。その目録感状を持って、老父のいる御着へ駆けて行ったであろうことは疑いない。彼もすでに三十余歳、陣中にあっては鬼謀の勇将と恐れられているが、家にあっては、まだ達者な親を持っている子どもであった。

三

その年の冬から翌年の正月にかけては、彼はまた、親のそばにも姫路にも侍していなかった。めずらしく私的な旅行をして歩いていた。

治内の視察か、敵状の検察か。それのみではないらしい。彼はしきりと、

「旧主小寺政職どのには、今どこにおられるか」

を、あらゆる知縁をたどって、諸国に探しあるいていた。

御着を離散して後、小寺政職が備後に亡命したことだけは聞き得ていた。しかし漂泊して行く先々の人情はすでに政職の頼りに考えていた知己とは違っていた。そのうちに連れていた僅かな召使もみな離れ、鞆の津に病んで、間もなくそこで歿したということが知れた。

「――それにしても、こ子息の氏職どのや奥方はまだおられるにちがいない」