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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

封の中

一

封の中

一

「やあ、見えられたか、官兵衛」

荒木村重はたいへんな機嫌を見せていた。むしろ衒気に近いものすらある。大きく膝頭をひらいて武将坐りを組み、長い肘を折って脇息へ倚せているため、すこし体が斜に構えた格好になっている。その筋肉のあらあらした隆起や青髯の痕にくらべて、側らから扇で風を送っている嫋女は余りに優雅ていた。

「いつもお変りありませんな。いや、いよいよご健勝のようで」

「何をいう官兵衛、左様に早く変ってたまろうか。お汝とはつい過ぐる頃、中国の陣で会っておる」

「ああ、上月城を退去の節、ちらと、信忠卿のご陣前で」

「――そうだろう、それなのに、幾年も会わぬようなことを申しおる」

「――何か、そんな気がふと致したのでござる。お人違いをする程に」

「なぜだ。なぜそんな気がするか」

「思うに、人はその人に相違なくても、月日はさほどに隔てておらなくても、人の心の変りようが、それがしをして左様に感ぜしめたのかもしれません」

「…………」

村重はまずい顔を作った。童女が陶物煙管に南蛮の莨をつめて、さっきから恐る恐るさしのべていたが、それに眼を向けても手を出さない。

左に置いてあった脇息を、右のほうへ持って据え直し、斜の構えを反対にしてから、