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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
違和
一
かえって彼の方から話をほかに紛らわせたりして、ようやく室殿の一顰一笑を拾うの有様であった。
このことはまた、いつのまにか侍臣の口から他へ洩れていた。憤慨した権藤亥十郎の脱城はそれから間もない後に行われた。村重は、甚だしく怒って、その不忠を罵ったが、家中の多くは沈黙の中にいた。
この頃から伊丹城中には、惰気ようやく満ち、士気また紊れ始めたかと見らるる徴候があらわれ出して来た。
安土の細作は敏感に嗅ぎつけて、城中の空気と、またそれのすぐ反映している城下の情況とを頻々、信長のほうへ密報していた。
違和
一
女たちばかりの奥曲輪には、表の戦況もとんと知れなかったが、伊丹城の運命は、それより数ヵ月前からすでに傾き出していた。殊に、夏に入ってからは、その落城も、きょうか明日かと思われるほど、最悪な所まで来ていたのである。
この実状は、この城の高櫓にのぼって、城下を一眸にながめれば歴然とわかる。まだこの春頃は、手をかざしても、肉眼では見えなかった敵方の陣営が、春の末頃からは、諸所にその旗じるしが望まれるようになり、その包囲形が、次第に圧縮されて来るにつれて、当初には、諸所各方面に、個々であった織田方の部隊が、いつのまにか連り合って、しかも伊丹の町へ接触していた。