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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
三
そして彼に使役された人間が町へもどると、口をそろえてみな彼の偉さを吹聴し、彼のすがたを見るところでは、どこの占領治下の地でも、みな彼を自分たちの家長のように親しんでいる。
(いずれはどこか見どころのある男にちがいない。たとえ織田家のごとき清新な進歩をとげている家中でも、譜代宿老を鼻にかけておるような人物に我が大志を託すよりは、むしろいちかばちか、彼に会って、その器量をこころみ、恃むべき男であれば、羽柴藤吉郎をまずこちらの薬籠中のものとしてから信長に会うも遅くはない)
あらゆる面から観て、官兵衛はこう判断を下したのであった。ただこのあいだに、彼に大きな誤算があったとすれば、秀吉と会うまでは、実に彼の胸では、その藤吉郎秀吉を、自己の大志のために、うまくとらえて、これを善く使うつもりだったことである。
――が、何ぞはからん、後になってみればみるほど、さしもの官兵衛も、これは逆であったことを、認めずにいられなかった。
三
深更であった。
城下端れに近い一寺院のまえに黒田主従は立ちどまった。
――深更でもよろしい。
ということばであった由なので、官兵衛はわざと、すこし夜を更かして来たのである。