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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

ふたたび、陽の目を仰いでも、為すことなき生命に執着するのではない。

「自分には為すことがたくさんある」

その信念に執着するのだ。自分ならで誰か為す者があろうと自負される世業にたいして、生命そのものが燃え惜しむのである。

「このままここで死んでは」

と、残念を感じるのだった。

「……もがくな、歯がみを鳴らすな。思うたところでしかたがない」

むしろ彼自体は、自己の生命にたいして、そう宥めている姿だった。――そして、ここの高窓から一道のうすい外光が射す日には、膝や袂をあるいている虱をながめて虚心に暮した。風は彼をなぐさめる唯一の友だった。

二

「……やっ。あんな所へ、藤の蔓がからんで来た」

ある日。彼は驚異の眼をみひらいた。東側に切ってある高窓の太い欅の桟に、いとも優しい藤の嫩芽をつけた蔓の先を見つけたからであった。

「ははあ。かしこの外には、藤棚があるとみえるな」

初めて、それを知った。

「……そうか、それで読めた。藤棚は多く池の畔にある。夜毎夜毎、昼も折々、あの外で、異様な音がすると思うていたが、それは池の魚が水を搏って跳ねる音だったか。道理で湿気の多いはず……」