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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

三

杖なしでやっと歩ける程度である。負傷した片脚は、傷口の肉こそついたが、ひどい跛行をひかなければ歩けないものとなっていた。

「これは生涯癒りそうもない」

その朝、亭主の左橘右衛門や大勢の者に見送られて、温泉宿の軒端まで歩いて出て官兵衛は、わが片脚をながめてそう呟いた。

雇い馬が曳かれて来た。

官兵衛は、鞍へ手をかけてみたが、乗れなかった。人々に扶け上げられて、ようやく鞍のうえに納まった。

「武士が独りで馬に乗れないでは不自由だ。これから屡乗り方を稽古せねばなるまい」

馬上で笑った。それを仰いで、宿の者大勢が、軒下で頭を下げた。

「永々、世話になったのう」

官兵衛は駒をすすませた。乗るには不自由でも、乗ってしまえば、片鐙でもさしつかえないふうに見えた。

すると、栗山善助が、馬の側へ寄って、

「殿、殿。ひと言、何ぞおことばをかけてやって下さい」

と、小声で催促した。

彼が促す目のほうへ官兵衛も眼を向けていた。池の坊を出てすぐの湯町の辻に、於菊が佇んで見送っていた。側には、義兄の白銀屋新七がいた。ふたりとも、官兵衛のひとみを自分たちの方へうけると、膝まで手をさげて、黙然と、別れの意を告げていた。