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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
かくれ家
一
数日の後、信盛の受取状をもって、家臣は立ち帰ってきた。その家臣からの報告によると、安土の今はそれどころでない緊張につつまれていて、小箱は信盛の手からお城へ達しられたが、果たして信長は、ろくにそれを見もしなかったらしいとの復命であった。
かくれ家
一
新緑は萌え、陽は夏めき、人は衣更えしているが、伊丹の町には、何となく清新な風もない。澱んでいる。不安がある。
城主の荒木村重と、そこにたて籠っている全城の者の神経が、城下の民にも、そのまま映るのであった。
「いつ、合戦の巷となるやら?」
という不安と、およそ荒木の領内は、その境を、完全に遮断しているという、動きのとれない中に置かれている重苦しさとからである。
いやそれよりも、伊丹の領民がみな必ずしも、領主の叛旗にたいして、支持をもっていないことも、この町に沈滞な気の見える一因であるということもできる。
だがその町中で、しきりと今を楽しんでいるような繁昌を示しているのは鎧師とか、塗師とか、染屋とか、鍛冶とか、馬具屋とかいう類の軍需品をうけ負っている工商の家々だった。
白銀屋新七なども、そのうちの一軒だといえよう。