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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
鉄壁
一
眠る間とて油断はならない。毎夜毎夜、彼は死を枕として寝ているも同じだった。
その後、織田軍は、秋から初冬にかけて、北陸攻略にひたすら全力を傾倒していて、中国を顧みるいとまなどはまったくないらしい。加うるに、毛利方では、御着、姫路の異端をもって、
「捨ておかれぬ大事である」となして、伐つならば今、信長がなお、他に繁忙なうちにこそと、はやくも兵船十数艘に、芸州吉田の兵を満載して、姫路附近の海辺から押しあげて来た。この上陸は年をこえた天正四年の春、月のない夜に行われた。早馬の知らせで、姫路城から少数の兵が急遽、防ぎに駆け向ったが、到底、精鋭な毛利勢の敵ではなく、たちまち撃退された。やがて朝となれば姫路の町の一端からは濛々と戦火があがって、辻々を戦い取っては進んで来る先鋒の毛利兵のすがたがいたる所で見られるほど危急が全城下を蔽ってしまった。
鉄壁
一
その朝の姫路の変を御着の城にあった官兵衛は起きぬけにすでに知った。
望楼の上に終夜立っている見張の者が、あわただしく駆け降りて来て、
「姫路の空に、ただ事ならぬ煙が見えますが」
と報じて来たのは、まだそこからの早馬が暁の城門を叩かない前であった。