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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

といい送った。

二

まだ梅の梢に雪も見える寒さである。春となって二月上旬。ここはわけて底冷えするという蹴上の盆地にある南禅寺の一房を出て、山門から駒に乗ってゆくいと痩せたる若い一処士にも似たる風采の人があった。

去年の秋以来、ここの僧房に籠って、ひたすら薬餌と静養につとめていた病半兵衛重治である。

供はただ一人の武士しかついていない。武士は主人の薬まで背のつつみに負っていた。

「お寒くありませんか。しきりと、お咳が出るようでござりますが」

「やはり外は冷たいの。この冷たい東風に馴れるまでのあいだであろう。いまに咳もやむ。陽もあたたかになろうし」

「お頭巾をおまとい遊ばしてはいかがですか」

「いや、さなきだに、人の目が尖っておる。白昼、面をつつんで歩いては、半兵衛重治が、また何事か謀むぞと、うるさい目がささやこうも知れぬ」

こんどの事件――黒田官兵衛のことについては、彼も多分に胸をいためた。同時に、彼の人生観へも惻々と二月の東風のように冷たい息吹きをかけられた心地がした。

若年、山に籠り秀吉に説かれて、ついに山を出で、ここ十余年の久しきあいだを、血の巷、世間の危路、あらゆる道をあるいたものの、依然、彼の心は、山にあって、里のものになりきれていなかった。