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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

ちらと流し目にお菊のほうを見もしたし、村重の感情ももちろんすぐ受け取っていたろうに、飽くまで涼しそうに、廂越しに、夜空の星のまたたきを見まもっているだけだった。

三

権藤亥十郎はかなり昂奮した語調をもって事実を述べた。当然、この事はすぐ眼のまえにいる室殿へも大きなひびきを持つことなので、彼としてはこの戦時にあって共々一城を守る家臣としての悲壮なる忠諫のやむべからざるを心からもいったのである。いわゆる面を冒して主をいさめるの気持だった。

摂津守村重とて、この良臣の言を怒るほどの暗君でもない。彼は、亥十郎の眼光のなかにある気持を充分に酌みとって仔細を聞いていた。

――そして後、しずかに、室殿をふり向いていった。

「於室。聞いていたか」

「――え。聞いておりました」

「この於菊とやらは、つい先頃からそなたの側に召使っているものではないか」

「殿も、よくご存知ではございませんか」

「……がまあ、念のために聞いたのだ。そなたとても、一半の責任はあるぞ」

「どうしてですか」

「このような怪しい女をなぜ今日まで側近く置いておりながら分らなかったか」

「何か怪しいのですか」

「亥十郎のことばを今聞いていたろうが」