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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
丘の一族
一
丘の一族
一
姫路までは一里弱。奔馬の脚では一鞭の間であった。
ここは山陽と近畿の咽喉にあたる要害の地であったが、当時はまだ後に姫路城と称されたあの壮大な景観は備えていなかったのである。御着の本城を防ぐための一支城であったに過ぎず、その壕塁も曲輪造りも極めて簡単な構築で、樹木の多い丘の上に、十数年ほど前から黒田という一豪族が住居を建てて住んでいたというに過ぎない程度のものであった。
しかし、この丘の家に、いつのまにか隆々たる勢力と人望が集められたのは、何といっても、近年のことで、その要因は、官兵衛という総領息子が、親まさりだったからといってさしつかえないようである。
とかく悪口をいいたがる世間の者は、
「――金の力もえらいものじゃ。目薬売りの浪人が、いつのまにやら地主になり、あのように大勢の召使やら馬を持つようになったことよ」
などと今になっても陰口をきく者もないではなかったが、決してそんな金力によるものでないことは、優秀な総領息子が、年を数えるごとに示して、まだ三十になったばかりの官兵衛だが、この姫路の小城も近郷に重からしめ、親の宗円の威徳をもいよいよ高からしめたこと寔に一通りでないものがある。