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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
惨心驢に騎せて
一
しかしこの別宴が終っても、誰ひとり身支度して、小寺へ帰るといい出す者もなかった。翌朝、一束ねにした誓書をたずさえて、旧小寺家の付人のほとんど全部の者が、宗円の前に出て、このまま黒田家の家中として留め置かれたいと願った。
もちろんそれは宗円始め家中の大きな歓びであり、願いはゆるされ、あらためてその日から純然たる家の子郎党の内に加えられた。
「たのむぞ、あとは」
十三名の決死組は、留守の鉄壁がこう固まったのを見とどけた上、年暮から春にかけて思い思いに伊丹の敵地へ立って行った。
惨心驢に騎せて
一
「官兵衛にも似げない不覚を……」
と、秀吉は彼の消息を知ったとき独り声を放って嗟嘆した。
「村重ずれの智謀に陥ちるなどとは、智者らしくもない」とも呟いた。
けれど彼は憂いの中に沈思して、いやそうでないとも考えた。世上の智者策士と呼ばるる者多くは軽薄であり小才子である。官兵衛にはそれがない。情弊がある。正直さがある。ばか正直ともいえるような一面すら持っている彼だ。
「武人として、こんどの失策は、決して彼の恥ではない。――量るに荒木村重が彼を殺し得ずにいるのは、なお彼に未練をもって、彼をして味方の用具となさんとするものであろう。