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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

したいと思うていたところでござった。それをわざわざこの岐阜までお越し下されたことは、何たる倖せかわからん。きょう町の辻にて、御辺の家人からご書面をいただいた折、ひょっと同姓異人ではないかと怪しんだほどでござった。さてさて、こよいは欣しき夜哉」

と、その正直に歓んで見せる容子というものは、世間なみにある軽薄な世辞とか社交というものを超越して、自他の地位階級も、主客のけじめも打ち忘れて、まったく一個の素肌の人間がありのままに感情を吐露しているすがたとしか見られなかった。

二

この室に臨むまでの官兵衛はすこし固くなった。これは当然なことともいえる。何といっても彼は地方の小大名に過ぎない者の一被官であり、相手は織田信長幕下でも一城を持つ人である。身分に於いては格段な差だ。彼としては同室するさえ破格な優遇といっていい。

――が官兵衛はなお、秀吉の下風について事を成そうなどという卑屈は毛ほども考えていないのである。彼も一城の主なら自分も一個の武門であり、彼が中央武人中の錚々たるものならば、自分も一指をもって中国の風雲を西へも東へもうごかして見せる自信はある者だと、口にはいわないが襟度にそれを示していた。