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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

「ここにおいて、秀吉が後詰をなすぞ。城中との連絡のとれるまで、怺えていよ」

秀吉は、諜者を放って、城中の尼子一族を、こう励ました。――けれと高倉山と上月城との間の谷々には、柵を植え、鹿柴を連ね、塹壕や堀など、あらゆる防禦線が造られていて、それは一歩たりと向うの峰へ取りつく術もないまでに構築されていた。

加うるに、敵の数は、秀吉軍に倍しているのである。ほとんど、毛利の国力を傾けて来たかの如き大軍で、その旗頭をかぞえて見ただけでも――小早川隆景の軍約二万、吉川元春の軍約一万五千、浮田直家の隊約一万四、五千はある。秀吉もそれを俯瞰しては、とうてい無謀な戦にも出られなかった。

やむなく、夜毎に、全山に大篝火を焚きつらねて、彼方の味方の孤塁に、遠く、士気を添えている程度にとどまった。

一面、毛利軍は、海上でも堂々とその勢威を示し出した。播摂一円の沿海に、旗のぼりを翻して遊弋している七百余艘の兵船は、一艘も余さず皆、毛利家の水軍だった。

二

事態の急を知って、安土の信長は、さきに子の信忠や、諸将を派遣したが、今やまた、毛利家の第二戦線が、上月城の包囲という形を取って、味方を二分した情勢を知り、この上はと、自身、出馬を決意したが、上方はここ数日の暴風雨で河川は氾濫し、途中の危険も報じられていたので、空しく、幾日かを見過し