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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

は、面をそむけて、ひそかに涙を拭わずにいられなかった。

――が、当人は至極暢気そうで、いっこうそんな感傷にとらわれていないのだ。どうだ、似合うだろう――などとお菊を顧みて戯れてみせたり、また、

「荷物の中も、空箱ではいかんぞ。何ぞの時、調べられたら大事だ。それに、掛売りの帳面、目薬屋の証し手形など、細々した物もみな出してくれい。……なに、頭か。なるほど髷の形もこれではいけまい。お菊さん、ちょっとこわして、よいほどに束ね直してくれぬか」

などと先を急ぎながらも、細心の注意をくばった。

二

月ののぼらぬうちにと、官兵衛は裏口から外へ出た。強って断ったが、与次右衛門も浜まで行くというし、お菊も、どうしても舟まで見送りに行きたいという。

「あとから来い」

官兵衛は大股に町を通り越えて、浜の雁の松へ急いで行った。見れば、約束の小舟らしいのが一艘そこに繋綱っている。官兵衛は波打際へ寄って、

「与次右衛門に雇われた船頭はおまえか。摂州まで約束したのはこの船か」

と、二度まで声をかけた。

船頭は艫にかがみこんで、土炉に火を焚きながら何か煮物をしていた。そして振向きもしないのである。