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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
将座の辛さ
一
わが子、松千代のてがみだった。
安土へ質子として連れて行って以来、明け暮れ、忘れようとしても、つい戦陣の夢にもみる十一の子の幼い文字ではないか。
中には、稚拙な文字と、天真爛漫な辞句で、自分の近況が書いてある。
竹中半兵衛さまの美濃の菩提山のお城は、姫路のお城より高い山にある。冬は雪が深く、春は遅い。初めは淋しかったが、家中の人はみな私を大事にしてくれるし、家中のものの子ども達は、私の勉強のあいてに、毎日、大勢してお城のうちに集まって来るので、この頃は淋しくも何ともない。
――というような意味をつづり、また、末のほうには、
(わたしもお父上と一緒に、はやく戦場に出ていくさをしたい)
とも書いてあった。
将座の辛さ
一
牙城、三木城の攻略は、まだ半途でしかない。折も折、
「毛利の大軍が、上月城を取りつつんだ」との飛報が、書写山へ入った。
上月城は、敵地へもっとも近く接近している味方の一突角である。そこを占領したのちは、尼子勝久、山中鹿之介などのいわゆる尼子一族をして守らせてある要地だ。当然、捨ててはおけない。
安土の援軍が着いたので、秀吉は直ちに、荒木村重の一軍をあわせて約二万を率い、そこの急援に馳せ向って、上月城の東方、高倉山に陣した。