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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
しばし、疑心暗鬼のうちに、人々が眼をしばだたいていると、宿将のひとり村井河内守は、戒める如き口吻で、突然語気つよくいった。
「いや、なおさら油断はならぬ。あの男のことだ、どんな鬼謀を抱いているやも知れぬ。決して怠るな、各※(二の字点、1-2-22)」
二
ゆうべ、姫路まで急いで来たが、今朝の官兵衛は、寛々たるものだ。
ゆらりゆらり、名馬書写山を歩ませて、御着まで一里余の道を――折ふしの晩秋の山野を眺めながら――、
「ありがたいな、田の稔りも、今年は良かったとみえる。紅葉も見頃。百姓たちの顔色も明るいぞ」
道連れの男と、こんなことを、大声で話したりしていた。
その連れの男というのは、姫路から後になり先になりしていた旅の六部である。いわば路傍の人間だが、官兵衛はわけ隔てなく快活に途中の徒然の話し相手にしていた。
「どうも失礼をいたしました。てまえはあの山の石尊様へ詣りますので、ではこれで……」
と、御着の城がすぐ彼方に見え出した頃、六部はふいに挨拶して、横道へ別れ去った。
官兵衛は見送って苦笑した。それも御着の密偵に違いないからである。こういう秋の蠅のような男をどれほど道中で見かけて来たか知れない。