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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

藤の枝

一

この内においで遊ばすのは、姫路の官兵衛さまではいらっしゃいませぬか。……お顔なりと、お姿の端なりと、お見せください。官兵衛さま」

綿々と、さけぶに似たその声は、夜風のあいだに断続する。官兵衛は、のけ反らんばかり怪しんだ。

「……やっ? 女の声だ、女の声にちがいないが」

彼には、思いあたるものがない、やはりこうして、夢ではないと思ってしている事が、夢ではないかといぶかられるのだった。

藤の枝

一

――仰ぐ窓辺の、藤の枝が揺れている。いや答えてくれる。

お菊は、牢獄のうちの人へ、自分の訪れが、正しく受け取られたものとして、一そう体じゅうの血を熱くした。

「官兵衛さま、官兵衛さま。かならず近いうちに姫路のご家臣衆が、お救いを計るでございましょう。それまでは、どんな事がありましょうとも、望みなき身と、おみずからを逸まっておあきらめ遊ばしませぬように」

彼女はそんな意味のことを、絶え絶えに口走っては、藤蔓の揺れるのを見上げていた。

獄内の官兵衛の耳に、それが明らかに届いているやどうかは疑われながらも、なお叫ばずにはいられなかった。

すると彼女のすぐ後ろで、いやほとんど足下で、蛙でも跳んだように、池の水が小さい水音をたてた。