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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

四

「あなたは、兵略のみならず、外交にかけても、人を反らさぬ達人だと思っていましたが、別所賀相を怒らせて帰したなどは、言語道断なご失敗です。ほかとちがい三木城は、勇兵も多く且つ天嶮です。この始末はだいぶ手間どりますぞ」

「仕方がないではないか」と、秀吉も自分の一場の感情に遺憾のあったことは認めたが、決して、これが悪い結果であるとはいわなかった。

「かえって、よかったともいえるな。何となれば、すでにいつか離反の火を噴く危険を孕んでいる三木城なのだ。お汝が上手に口舌で彼等を服させた功はおろそかに思わんが、中国経営の大業が、砂上の楼閣であってはならぬ。そのためにはむしろよいことじゃったよ」

負け惜しみは充分にある。しかし、そう考えるべきが不屈不撓の精神といえるかもしれない。官兵衛も二度とそれに触れないようにした。そしてだんだんに秀吉なる人の長所と共にあらも見えて来るほど、秀吉が自分へ宛てた手紙の内にも書いている、「――お汝はわが弟の小一郎も同様に思うぞ」ということばの真実が身に沁みて来るここちがした。

四

ことばの上では、いかに秀吉が負け惜しみをいっても、三木城離反のために、軍の既定作戦に急角の変化をもって来たことだけは蔽い得ない。