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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

と、人々ははや思い思いその在所をさぐりつつまっしぐらに火の下へ潜り入っていた。

三

どこよりも低いせいか、地下室にも似たここの一郭は黒煙も余り立ちこめて来ない。その代りに焔は極めて強烈に櫓の中層から下へむかって逆落しに燃えひろがろうとしている。

官兵衛は獄の中に坐っていた。焔は荒い格子組のすぐ外まで来ているし、黒い火屑は大床を吹きこがされて自分の膝のそばにも溜った。けれど、如何ともする術もない。彼は北側のいちばん隅の壁に背をつけて、むなしく坐っていた。

彼方の火焔とは反対に、ここの壁は石垣のように冷たかった。滴々と清水が滲み出している。そして一年中、陽のあたったこともない壁である。

余りに湿度が多いため、武器庫として不適当と認められて、久しく空いていたあとが官兵衛の獄に利用されたものであろう。官兵衛の満身はそのために、見るかげもない湿疹を病んでいる。――彼は起とうにも容易に起てないほど衰弱していた。

「ついに来る日が来たか。身はこのまま焼け死ぬも、定まれる運命ぜひもない。この際、荒木村重が末路を眺め得たのはむしろ望外なことだ。胸中の鬱懐も焼き放つような心地がするぞ。