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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

闇

一

闇

一

途中、加古川に一宿して、官兵衛は旅舎の燈火を掻きたて、一書を認めて袂にした。

翌朝、往還の木戸まで来ると、要路を守る羽柴の軍隊に会った。官兵衛は袂のものを取り出して、

「筑前様にお手渡しいたしてくれ」

と、書状を託して先へ急いだ。

いうまでもなく、その後の消息と、遽に、荒木村重の伊丹城へ赴くことになった事情を、書中つぶさに伝えておいたものだろう。

「ひと目、お顔も見たいが……」

と、平井山の方面を振り向いて、一日か二日をそこへとも思わぬでもなかったが、摂津の情勢は半日の間も猶予し得ぬものがあるし、また、御着のあの後も猫の目のようなものだ。いつどう変るやらわからない。そう考えると、

「急ぐに如くなし」

と、途中の茶店で白湯一碗すする気にもなれない。

果たせるかな、一歩、摂津に入ると、険しいものが往来の者にも感じられる。兵庫あたりから花隈城の兵が道路を扼し、随所に柵を作り、関をむすび、

「どこへ行く。何しに参る」

と、物々しい往来調べである。

「御着の家臣、黒田官兵衛、主命によって、伊丹のお城までまいる」

ここでは秀吉随身の者とはおくびにもいわなかった。