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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
彼に報いた秀吉の意を、纏めていえばこういう程度であった。それ以上、積極的には出ないのである。酒もうまし、相手も語るに足る人と見込んでいるが、その点、官兵衛はなお不満だった。
二
「間に合わん。そんな常道を踏んでいては、遂に、間に合わんことになってしまう」
すこし語気は激越なものをふくんで来た。もちろん官兵衛のそれには、すでに一壺を空けた酒のちからも手伝ってはいたろう。杯は彼の憤然たる唇から常に離れなかった。
「――間に合わんとは?」
秀吉は笑うのである。ふと、官兵衛を拍子抜けさせるようなとぼけかただった。
「ご存知ないか。毛利方の軍備というのは、一朝一夕のものではありませぬぞ。想像以上と思わねばなりますまい」
「わかっておる」
「摂津、山城、和泉には、からくもお味方が点在しておるが、一歩播州へ入ってごらんあれ。織田家に靡くか、毛利につくか、などと考えている者は恐らくこの黒田官兵衛ぐらいなものでしょう。まず悉く毛利与党です」
「む。さもあろうか」
「陸上はしばし措いても、瀬戸内から摂津領一円、大坂の河口まで、海上を支配しているのは、どこの国ですか。一毛利家ではありませんか。