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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

二

それから一刻も過ったかと思われる時分だった。もう家に帰りついて寝たころのはずである新七が、あわただしい声で、ふたたび山門を打ち叩き、何事か大声でどなっている。

いま眠りに就こうとしていた母里太兵衛や後藤右衛門などが、

「新七らしいが?」

と、怪しみながら庫裡を出て、山門の方へ行ってみると、ひと足先に、栗山善助がそこへ駆け出していて、山門をひらき、何事か新七から聞き取っているふうだった。

後から来たふたりを認めると、その善助は、落着いた中にも烈しい語気で、

「すぐ一同に身支度してこれへ集まるようにいってくれ」

と伝えた。

寺にはかねて武具まで持ち込んであったと見え、たちまち駆け集って来た人々はみんな小具足に身を固め、槍長柄など、思い思いの打物をかかえていた。

善助や太兵衛や右衛門も、身をひるがえして、いちど寺の中へかくれると、たちどころに武装して出直して来た。

――が、まだ一党の者は、いったい何事が突発したのか、覚り得なかった。

「みな揃われたか」

栗山善助は、頭数をながめてから、早口に、且つ明瞭に告げた。

「事情はわからぬが、明後日の夜半と期していた城中の内応が、突然、たった今、火の手となって勃発いたした。