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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

――が、官兵衛は、家老として、この城に勤めていた日と、何らの変りもなく、

「ただ今、戻りました。――殿にも、いつもいつもお恙なく。また方々にも、官兵衛の留守中、何くれとなきご忠勤。お礼を申しあげる。……いや誰方とも、まことに久しぶりで、何やら十年もお会いしなかったようなここちがする」

と、あたかも人々の困惑ぶりを慰めるように、こだわりなき態度を示して、以前の親しみを呼びかえすことに努めた。

三

その日、主人政職とも、直談をとげ、一族老臣たちとも、膝くみで事情を語りあい、官兵衛は、心ひそかに、

(今のうちなら荒木とも毛利の誘惑とも引離せる。帰って来てよかった)

と、いささか眉をひらいて、当夜は城外にある自分の屋敷へ戻って寝んだ。

彼はあくまで虚心坦懐をむねとしてこれへ帰って来たのである。何の策も持つまい。怒りも現わすまい。ただ主家小寺家のためと、武門の信義をもって一貫しよう。有るは唯、誠の一字、それをもって、主人を説き一族老臣も説き伏せよう。もし成らざれば成らざる上のこと――という謙虚な気持でぶつかったのである。

その誠が通ったか、あくる朝、江田善兵衛や村井河内守などが遊びに来て、何かと、忌憚のない話をして帰ったが、午近い頃、あらためて、政職の使いとして、益田孫右衛門が彼を迎えに来た。