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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

(家伝神効)玲珠膏

と大書してある目薬のそれを仰ぐと、自分の幼時と、父の貧困時代を思いだして、しばしなつかしそうにながめていた。

二

目薬屋の与次右衛門も、以前は官兵衛の父宗円職隆の家僕のひとりだった。

赤松氏の老臣浦上宗則が主家を覆して、国中大乱に陥ちたとき、宗円は備前からこの播磨に乱をのがれて来て、以来久しい浪人生活をしていた。――井口与次右衛門は実にそのころからの家来で、よく主に仕えて困窮時代を切りぬけ、やがて宗円が小寺家の被官となって、今日の基礎を固めてから後は、年も老い、病気でもあるところから、余生は気楽な町家住居で送りたいと望んだので、宗円は自分の窮迫生活を救ってくれた家伝の目薬の調製と販売をそのまま彼に譲って、その功労にむくいたものであった。

そういう関係でもあったし、わけても、官兵衛としては幼少からこの与次右衛門にはよく馴ついて、洟をかんで貰ったり背に負われたり、ほとんど、主従という念すらなく我儘をして来た者なので、いまだに彼のすがたを見ると、幾分そのころの駄々っ子の調子がついことばにも出るほどであった。

「爺や、爺や。もう何もかまうな。