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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

二

味方の大部隊は去って、羽柴筑前守一軍をもって、いよいよ難攻不落の三木城に対し、長囲滞陣と肚をすえた平井山の陣地にも、もう初秋が訪れていた。

山には桔梗が咲き、芒が穂を出した。

「きょうは山中鹿之介幸盛の百ヵ日にあたる。河部の渡しで死んだとき、彼は胸に大海の茶入れを懸けていたという。あの豪骨でも、やさしい風雅の一面があったとみえる。こよいは秀吉がみずから彼の恨み多き義胆忠魂に、一碗供えてなぐさめてやろうと思う。お汝らもそれにいて相伴いたすがいい」

陣屋の板庇から白い月がさしている。秀吉はそういいながら湯鳴りする釜の前にしばし畏まっていた。陣中でも折々は茶に集まったが、かくの如く秀吉が素直に寂として見せたことはない。

席には二人しかいなかった。もちろん半兵衛と官兵衛である。秀吉が鹿之介の忌日を忘れなかったということは、二人にとっても有難い心地がした。この人のためには死も惜しくないという気持を深めさせられた。

その晩である。

竹中半兵衛は自身の陣所へ帰る途中、月の白い道ばたに屈み込んだまま、しばらく起ち上がらなかった。

「どう遊ばしましたか」

供の郎党は、月より白い彼の面をのぞいて、眉を曇らせたが、やがて歩み出しながら半兵衛は、