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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
待望の日
一
官兵衛としては、ひとりの子を送ることよりも、織田軍数万と、ひとりの大将を播州へ迎えることに、智嚢をしぼった。そしてその実現を見る日は、今を措いてはないと信じていた。
陸路を、単騎いそいで、荒木村重に会い、近畿の形勢をたずね、また中国進攻の場合の備えに何かと打合わせなどして、彼は、兵庫の浦の漁村にかくれて、わが子の着くのを待っていた。
それは九月の末だった。
待望の日
一
安土の秋は、去年の秋とは、まったく景観を一変していた。すでに天守も竣工し、八楼十門を繞る城下町も、新しき文化の大都府たる装いをほぼ完成しかけていた。
父と共に、ここへ着いた松千代は、眼をまるくしていた。姫路の小城と比較しては、少年の目にすら、余りにもちがう安土城の豪壮と絢爛に唯もう唾をのんでいる姿だった。
けれどこの少年も後には黒田長政となった資である。父官兵衛に伴われて、安土の群臣の前に出ても、また信長に目見得しても、決して卑屈に羞恥んでばかりいなかった。悪びれない姿で、何事にもはきはき答えた。
「父親の官兵衛よりは眉目も美い。母御に似たと見ゆる。気性も確かり者らしい。良い和子だ。