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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
と、いってしまって、
「天正五年の新春といっても、はや間近うございます。それがしどもも、木の香新しい御座に侍して拝賀のお杯を頂戴できるものと、唯今から楽しんでおりまする」
と、その日までに、間に合わせることを、約するともなく約してしまった。
もっとも信長がそう急き立てるにも理由はある。彼はもうこの十一月の初めに、岐阜の城を一子信忠に譲って、自分は、ほんの手廻品と、茶道具一揃い携えただけで、安土の桑実寺に移り来ていた。いわば寺の間借という侘しき住居である。正月をその寺ではすごしたくないし、事実、越えられもしまい。
こういう背水の陣を以て催促されているので、奉行たる長秀は、信長が屡見まわりに来るごとに、その扈従と案内に立っている暇も、実は、迷惑なほど、時間が惜しまれていた。ところが、今日は折よく、
「長浜から羽柴殿が見えられましたが」
と、君前に取次が出たので、よい機なりと、彼は引き退がって、入れかわりに来た羽柴秀吉に、目礼を交わしながら立去った。
二
去年、北陸攻略の終った後、秀吉は小谷の城から、長浜の城に移っていた。
大湖を抱いて、安土と長浜と、君臣同じ渚に住むようになったわけである。