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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

紙つぶて

一

そう誓って許されはして来た暇であるものの、行く先の事情と目的の困難を想像すれば、到底、生きて帰るなどという僥倖は望まれない。百に一つもあり得ないといってもいい。――そう固く信じている彼は知らず識らずこれを今生の別れのように、可愛い郎党の姿も振り返られ、秀吉の姿も仰がれ、また平井山の暮れゆく山容も眺められていたのだった。

「愚痴だ。妄想するなかれ。北条時宗もいった。うしろ見は武門にない。当ってくだけろ。道は一すじ」

鞭をあてるや、そこからは夜にかけて、馬の喘ぐまで駆け通した。

紙つぶて

一

諸方に網の目を張っている物見の諜報は実に早い。

声なき声は、街道すじの駅へ駅へ。

(黒田官兵衛、平井山を離る)

(官兵衛、西へ急ぐ)

(官兵衛、姫路へ帰る)

頻々、風のように、ここへ伝えて来た。

これが御着城に聞え出した日から、小寺政職以下、すわというような衝動をあらわしていた。

「何をあわてる。姫路へ向って、一戦の用意だに固めておけば、騒ぐことは何もない。いざとなれば何時でも、毛利家の大軍が後詰に来ることになっている」

一族の小川三河守、宿老の益田孫右衛門、蔵光正利などは、家中を励ました。