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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
室殿
一
「昆陽寺へ戻れと仰っしゃる理由は?」
「わからんか。鈍なやつじゃ。じっくりと、お前方の望んでいる相談を聞いてやろうというんじゃ」
「えっ。……では」
新七はぶるぶる顫えた。そして、まだ肩に載っている八弥太の具足の手が岩でもあるように重い気がした。
室殿
一
昆陽寺までは戻らなかった。しかし加藤八弥太に引かれて新七は附近の森蔭まで行った。そこで八弥太は、
「木の根へでも腰かけろ」
といい、自分もどかと、草の中に坐った。
日頃から気性のおもしろい武士なので、常にはよく冗談などもいえたのだが、今夜は恐ろしい姿に見えて、新七は皮膚もそそけ立っている顔つきだった。ある覚悟をすら肚にすえていた。
「実はのう新七。へんなはなしだが、飾磨から来ておるおまえの義妹とかいうむすめだな。あれはどうする気じゃ。良縁があれば嫁にでもやる気か」
何事かと思えば、八弥太のはなしというのは、いきなりこうなのであった。余りにも唐突なので新七はまごつきもし、また、よけいに相手の心を疑った。
「わしのご主人の伊丹兵庫頭様。これはもうご老年じゃし中風の気味で、一切ご陣役も勤めておらんが、ご次男の亘様は、お城の搦手、北御門の守りについておられる。