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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

しかし黒田官兵衛と聞けば知らぬ者はない。阻めるわけにもゆかないが、油断ならぬぞという目顔で通すのである。そして必ずその後から早馬がすれちがって先へ駆けて行った。

もう近い、伊丹はそこだ。官兵衛は悠々と馬を打たせて伊丹近くの松並木まで来た。すると誰やら路傍から、

「旦那様、お久しぶりでございまする」

呼びかけて、彼の振り向く鞍わきへ歩み寄り、腰低く挨拶をしている者があった。

二

「おう新七ではないか」

官兵衛は馬を降りて、馬を木蔭につないだ。そして汗の顔を拭いながら、路傍の木の根に腰を休めて、

「わしの来るのをどうして知ったか」

と、訊ねた。

伊丹の城下に住んでいる白銀屋新七という金銀細工の飾職人である。この男は、姫路の目薬屋与次右衛門の縁類で、かつて官兵衛が志をふるい、郷国を脱出して、初めて岐阜に信長をたずねて行った折に、途中、与次右衛門のすすめによって、白銀屋の家に一泊したり、そこで旅装を変えたりして、京都から岐阜へ潜行したものであった。

「伊丹ではもう今朝から旦那様の来ることが皆の噂になっておりまする。てまえも荒木様のご家中から聞きましたので」

「えらい早耳だの。