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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

けれどもそれとて一瞬の死闘だった。たちまち荒木勢の数が減じ出した。城門附近にいた内応組の伊丹亘が居あわせた足軽組をひきつれて来て、荒木方の武者を、圧倒的な兵数で叩きはじめたのである。

この激戦のうちに、いちど地上に抛り出されていた官兵衛は、そばに落ちていた槍を拾って、それを杖に立ち上がった。逃げる気ではない。戦う気である。蹌めき蹌めき敵と覚しき人影へ穂先を向けて、歩いていた。

――が、それも十歩か二十歩。すてんと、勢いよくまた仆れた。こんどは起てなかった。左の脚の関節あたりから出血している。引っくり転された亀のような形をして、官兵衛はまだ利く片脚と両手の槍を振りまわしていた。

三

ひややかな夜気は彼を一たんの昏絶から呼び醒ましていた。官兵衛は気がついたまま、ぽかんと眸をうつろに天へ向けていた。

自己の意志だけを以てどうにもならない長い獄中生活は、彼にある生き方を習性づけていたかも知れない。怒濤の中にあっては怒濤にまかせて天命に従っていることである。しかも断じて虚無という魔ものに引き込まるることなく、どんな絶望を見せつけられようと心は生命の火を見失わず、希望をかけていることだった。