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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

四

四

毛利家の水軍の一将、浦兵部丞が敢行した姫路襲撃は、その上陸には成功したが、戦には惨敗を喫した。

市街戦は夜に及んだ。しかも市街の一角にとどまって、まったく進撃を喰い止められてしまった。

姫山の黒田宗円がその老骨をひっさげて、自身陣頭の指揮に当ったのみでなく、部下はみな強く、みなよく訓練されており、日頃の恩顧に報うは今ぞと、捨身になって敵へかかった。

その敵愾心の猛烈さにも、毛利勢はまず一泡吹いたが、より以上、彼等が苦闘に陥った理由は、この姫路の城下町が、他国の城下町とは、まったく異なる性格を持っていたことを知らずにいたことにある。

それは、敵兵の侵攻をうけるや否、城下民のすべてが、兵と化して、火を防ぎ、老幼を避難させ、また思い思いな得物を把って、毛利勢へ当って来た予想外な戦力にぶつかって、寄手浦兵部丞も初めて、これは? と狼狽したほどであった。

町中に玲珠膏という目薬の看板をかけている井口与次右衛門のごときは、たちまち、日頃の店頭のすがたとは打って変って、いわゆる「町屋組」部隊の老将として、むかしを偲ばせる武者振りをあらわしていた。

そのほか、彼と同じような者は、幾十名も、町中に住んでいたのである。